任意整理の基礎知識
はじめに
借金をしてしまった場合、放っておくと返済できなくなってしまうこともあるので、「支払いが苦しくなってきたな」と感じたなら、早期に対応することが重要です。
債務整理手続きの中でも「任意整理」は非常に手軽で利用しやすいため、多くの債務者の方が任意整理で借金問題を解決しておられます。 ただ、「任意整理」という言葉を聞いたことがあっても、具体的にどのような手続きなのか、どのようにして進めていけば良いのかなど、わからないという方も多いでしょう。
以下では、借金問題を解決する方法である「任意整理」について、弁護士が解説いたします。
1.任意整理とは
そもそも、任意整理とはどのようなことなのでしょうか?
任意整理は、借金を整理するための「債務整理」手続きの一種です。任意整理するときには、債務者が債権者と直接交渉をして、借金の返済方法を決め直します。破産や民事再生とは異なり、法律に則った手続きではなく、裁判所の関与なしに自分たちで「任意の方法により」解決するので、「任意整理」と言われます。
任意整理をすると、借金の支払額を減額して和解し、その後だいたい3~5年程度の間に残った借金を支払っていくことになります。任意整理後の支払いは、毎月1回、銀行振込になることが一般的です。
任意整理の最大の特徴は「裁判所を介さない」ところです。裁判所や法律によるしばりがないため、債務者と債権者の裁量により、柔軟に対応することができます。
また、必要書類もほとんどなく、手続きの方法や期間の拘束などもありません。
ただし、法律によって強制的に借金が減額されるわけではないため、借金をどれだけ減額できるかなどは、債権者の一存に委ねられる部分が大きいです。個人再生や自己破産と比べると、借金の減額率は低くなります。
2.任意整理のメリットとデメリット
以下では、任意整理の具体的なメリットやデメリットを確認していきましょう。
任意整理のメリットは、以下の5つです。
- ● 債務整理の対象にする借入先を選択できる
- ● 毎月の返済額、(相談者)返済額を減らすことができる
- ● 勤務先や家族に秘密にできる
- ● 法令金利を超えて支払いをしていたら、大幅な減額・過払い金請求ができる
- ● 家や車がなくならない
任意整理のデメリットは、以下の3つです。
- ● 借金が減りにくい
- ● いわゆるブラックリスト状態となる
- ● 強硬な債権者がいると、手続きができない
3.任意整理のメリット
まずは、任意整理のメリットを確かめていきましょう。
3-1.メリット①債務整理の対象にする借入先を選択できる
任意整理のメリットの1つ目は、債務整理の対象にする借入先を選択できることです。 つまり、複数の借入先がある場合、ある借入先には借金の減額を申し入れるけれども、他の借入先については今まで通り支払い続ける、ということが可能です。 このようなことは、自己破産や個人再生では許されません。これらの手続きでは「債権者平等の原則」がはたらくので、特定の債権者だけを特別扱いすることができないからです。これらの手続きでは、すべての債権者を手続きの対象にしなければなりません。債権者隠しをすると、借金の免除や減額が受けられなくなってしまうおそれがあります。 任意整理で対象とする債権者を選べることは、特に友人知人や親族などから借入をしている場合、車のローンがある場合、保証人がついている借金がある場合に役立ちます。
まず、友人知人や恋人、親族などから借金をしている場合、できればそれらの借金については、自分で支払っていきたいという気持ちになることが多いです。 任意整理であれば、それが許されます。もし、個人再生や自己破産であれば、手続きを始めた時点ですべての債権者に通知をして支払いをストップしなければならないので、借入先の個人に多大な迷惑をかけることになります。
次に、車のローンを組んでいる場合です。この場合、車のローンを宰務整理の対象にすると、車を引き上げられてしまうおそれが高います。車のローンを組むときには、車の所有名義をローン会社にして、いわゆる所有権留保をすることが多いからです。
任意整理であれば、車のローンだけを外して手続を進められるので、車を引き上げられることがありません。
さらに、保証人がついているケースです。保証人がついている借金を債務整理の対象にすると、債権者は「担保」としての保証人に対し、借金の請求(多くのケースでは残額の一括請求)をしますので、保証人には多大な迷惑をかけることになってしまうのです。
任意整理であれば、保証人つきの借金を外して手続きができるので、その借金だけは従来通り自分で支払っている限り、保証人に対して支払い請求されることはありません。
任意整理なら、保証人に迷惑をかけずに済みます。
3-2.メリット②毎月の返済額、総返済額を減らすことができる
任意整理をすると、借金の総返済額を減らすことができます。
任意整理をするとき、多くのケースで「将来利息」をカットすることができるからです。
将来利息というのは、債権者との合意後、完済までの間に発生する利息です。本来ならば借金を完済するまでの間は、残元本に対する利息が発生するはずですが、任意整理をする場合には、それを全額カットしてもらうことができるのです。つまり、任意整理後は、残った「元本のみ」を全額支払うと、借金を完済したことになります。
このように利息がカットされる分、借金の総返済額が減ります。
また、任意整理をするときには、支払期間も延長することがあります。このことで、月々の返済額を、より小さくすることができるのです。
たとえば、それまで毎月8万円の返済をしていた方が任意整理をすると、月々の支払いが4万円に減った、ということなどがあります。(どのくらい減額できるかは、ケースバイケースです)
3-3.メリット③勤務先や家族に秘密にできる
任意整理のメリットの3つ目は、周囲に知られにくいことです。
任意整理は、自己破産や個人再生などと異なり、裁判所を利用しないため、債務者にとって、負担の軽い手続きです。
定められた方式がなく、必要書類なども少なく、裁判所に行く必要もありません。
このように、簡単に進めることができるので、当然周囲にも知られにくいのです。
たとえば、自己破産や個人再生などの場合、必要書類を集めているうちに家族に不審に思われてバレてしまったり、裁判所に出掛けようとしてバレてしまったりすることなどがありますが、任意整理の場合、そういったリスクがありません。
勤務先にも友人知人にも、同居の家族にさえも知られずに手続きができます。
家族に秘密で借金をしている方には是非ともお勧めしたい債務整理方法と言えます。
3-4.メリット④法定金利を超えて支払いをしていたら、大幅な減額・過払い金請求ができる
任意整理のメリットの4つ目は、法定金利を超える金利が借入をしていた場合の取扱いです。
法定金利とは、利息制限法が定める制限利率のことです。
借金額が10万円未満なら年利20%、借金額が10万円以上100万円未満なら年利18%、借金額が100万円以上なら年利15%が上限です。
ただ、平成19年頃以前においては、多くの貸金業者が制限利率を超える利率で貸付をしていました。このように、法定金利を超えた利率で借入をして返済を続けていた方の場合、利息制限法に引き直して計算し直すので、任意整理によって大きく借金を減額することができるのです。
場合によっては、払いすぎた利息(過払い金)を取り戻すことができるケースもあります。過払い金の金額は、ときに100万円を超える多額になることもありますし、過払い金請求には特に大きなデメリットもありません。
3-5.メリット⑤家や車がなくならない
任意整理のメリットの5つ目は、財産が無くならないことです。
このことは、同じ債務整理の一種である破産手続きと比べてみると顕著です。
破産の場合には、債務者は最低限の財産しか所持を許されません。生活に必要な限度を超えるものについては、すべて債破産管財人に引き渡し、債権者へと配当しなければならないのです。そこで、自己破産をすると、家や一定以上の価値のある車や預貯金、生命保険、株券、貴金属などの財産はすべて失われてしまいます。
任意整理であれば、そのようなことはないので、すべての資産を持ったまま手続を進めることができます。財産を持っていることが不利益に評価されることはありませんし、債権者に対して財産状況を知らせる必要もありません。
4.任意整理を弁護士に依頼するメリット
ところで、任意整理をするとき、「自分で手続を進めるのか」「弁護士に依頼すべきか」迷う方がおられます。弁護士に依頼すると、どのようなメリットがあるのでしょうか?
4-1.手間が省ける
1つは、手間が省けることです。
慣れない方が任意整理を自分でしようとすると、多大な労力がかかります。
まずは取引履歴開示請求書を作成して各債権者宛に送り、開示を受けたら利息制限法に引き直し計算をして、借金の返済計画を立てて、債権者との交渉もしなければなりません。
普段の生活が忙しい方には過大な負担となるでしょう。
弁護士に任せると、こういった煩わしい手続きはすべて弁護士が行うので、ご本人は何もせずに待っているだけで借金問題を解決することができます。
4-2.家族に知られずに手続きしやすい
任意整理をするときには、周囲に知られにくいという説明をしましたが、それは弁護士に対応を依頼した場合の話です。 任意整理を弁護士に依頼すると、その時点で債権者からの返済督促がストップします。貸金業法という法律により、弁護士介入後は、債権者は弁護士を通じてしか、債務者に連絡してはいけないことになっているためです。 そこで、既に借金返済を滞納しており、債権者から督促の連絡が来ていたケースでも、自宅宛に督促状などが届かなくなり、家族に見られる心配がなくなります。 自分で任意整理をしているとそうはいかず、債権者から連絡が届き続けるので、同居の家族にも内緒で手続を進めることは難しくなるでしょう。 また、弁護士に依頼すると、その時点から借金の返済自体もいったん止めるので、合意が成立するまでの間、「借金がないのと同じ状態」になります。 それまで借金に追われて崩れてしまった生活も、建て直していくことができます。
4-4.有利な解決につなげやすい
任意整理で有利な解決を実現するためには、借金返済計画案の作成や交渉の過程が重要です。 ただ、債務者の方がご自身でこうした作業を行うと、どうしても業者主導で話が進んでしまいます。債務者は、「借金を返さなければならない立場」ながら、「借金返済方法を変更してほしい」と主張しなければならないので、どうしても立場が弱くなるのです。 この点、弁護士が代理で交渉する場合には、法律家としての第三者的立場から、債務者の権利をしっかり主張することができますし、支払いを継続していくために、持続可能な返済方法を定めて和解することが可能となります。
5.任意整理のデメリット
次に、任意整理のデメリットをご紹介していきます。
5-1.デメリット①借金が減りにくい
まずは、借金が減りにくいことが問題です。 任意整理の場合、債権者との話合いによって解決することになりますから、法律によって強制的に借金を減額させることができません。 そこで、利息制限法を超過した利率による取引がない限り、借金の減額率は小さいです。 カットされるのは将来利息程度なので、元本についてはそのまますべて残り、支払いをしなければなりません。 そこで、借金額が既にある程度大きくなっている場合、任意整理によっては解決が難しくなるケースがあります。 だいたいの目安として、借金総額が300万円を超えると、任意整理よりも個人再生や自己破産を検討した方が良いケースが増えてきます。
5-2.デメリット②いわゆるブラックリスト状態となる
任意整理に限らず他の債務整理手続きにも言えることですが、任意整理などの債務整理をすると、いわゆる「ブラックリスト状態」になってしまいます。 ブラックリスト状態とは、「個人信用情報」に「事故情報」が登録されて、ローンなどの借金がクレジットカードの利用ができなくなった状態です。 一度ブラックリスト状態になると、その後5年間程度は自分の名義で住宅ローンや車のローン、キャッシングや分割払いによる物の購入、クレジットカードの発行などができなくなってしまいます。 ただし、家族の個人信用情報には影響がないので、家族の名義でローンを組んだりクレジットカードを作ったりすることは可能です。
5-3.デメリット③強硬な債権者がいると、手続きができない
任意整理の3つ目のデメリットは、債権者によっては手続きそのものが難しくなることです。 任意整理では、債権者と債務者が話合いをして、和解することによって借金の返済方法を決め直します。 そこで、任意整理で解決するには、債権者が話し合いに応じることが必要です。はなから条件変更に応じない債権者が相手だと、任意整理で解決することは不可能です。 また、任意整理の話合い自体はできたとしても、条件が合わずに合意できないケースもあります。そのようなとき、合意せずに放置したままにしておくと、裁判をされたり取り立てに遭ったりする可能性があるので、個人再生などの別の債務整理方法によって、解決する必要があります。
6.任意整理ができるための条件
次に、任意整理をするための「条件」について、ご説明します。
6-1.借金が多すぎない
1つ目は「借金が多すぎない」ことです。 先にも説明した通り、任意整理では、個人再生や自己破産などと比べて借金の減額率が低く、元本はそのまま残ってしまうことが多いです。 そこで、あまり多くの借金があると、整理仕切れません。 任意整理をするときには、手続き後、だいたい3年~5年の間に支払いを終える必要があります。 そこで、目安として、今ある借金の残額(元本のみ)を60回払い(5年)で計算してみて、月々それだけの支払いを継続していけるか、考えてみましょう。 それが可能であれば任意整理できる可能性がありますし、無理であれば任意整理は諦めた方が良いです。 たとえば、借金額が200万円の場合、60回払い(5年払い)にすると、1回(1ヶ月)の返済金額は33300円くらいです。 借金残額が300万円になると、1回の返済金額は5万円となります。 このくらいのお金を毎月確実に5年間、支払い続けられるかという問題です。 無理に和解すると途中で支払いができなくなってしまうケースがあるので、くれぐれも、ある程度余裕をもった返済計画にしておくことが大切です。
6-2.返済能力がある
次に、任意整理をするためには、最低限の返済能力が必要です。 任意整理をすると、手続き後に3~5年間、支払いを継続していかなければならないためです。 無職無収入の人や収入が少なすぎる人は、任意整理することができません。 ただ、定職に就いていなくても、何とか返済を継続していけるならば任意整理できる可能性があります。アルバイトや派遣社員、日雇いなどの方でも任意整理はできます。 また、専業主婦の方の場合、夫の収入によって返済を継続できるなら、自分自身の収入がなくても、任意整理可能です。
6-3.1回も返済していない債権者ではない
任意整理をするとき、もう1つ重要な要素があります。それは「一度も返済していない債権者ではない」ことです。 つまり、借金して1回も返済しないまま「借金を減額してください」と言っても、通常, 債権者は応じてくれない、ということです。このような場合、「はじめから返済するつもりがないのに借金の申込みをしたのではないか。詐欺ではないか」と言われてしまう可能性もあります。 そこで、任意整理をするならば、最低1回は返済してから手続きに入りましょう。 これから任意整理などの債務整理手続きをしようという場合には、追加借り入れをする前に弁護士に相談すべきです。追加借り入れしてしまうと、すぐには任意整理できなくなってしまう可能性があるからです。
7.任意整理の影響や、知っておくべきこと
次に、任意整理をするときに知っておくべき影響や注意点を説明します。
7-1.任意整理の返済期間
任意整理後、返済期間はどのくらいになるのでしょうか? 一般的には、3年~5年程度です。 ただし、それに限らず、当事者同士の話し合いで、自由に設定することができます。 早期返済が可能であれば、1年やそれ以下で返済してしまうこともできますし、債権者が納得したら、7年や10年間の長期の返済期間を設定することも認められます。 ただ、実際にはあまり長くなると、一般的に債権者は合意しませんし、返済期間が延びると、その間いろいろな事情変更(たとえば病気や失業、出産や怪我など)が発生するリスクが高まるので、返済期間を長くしすぎることは基本的にお勧めしていません。 5年以上の返済期間を設定することができるか、またどのくらい延ばすことができるかについては、業者や債務者の状況によっても異なってくるので、個別にご相談ください。
7-2.任意整理とクレジットカード
任意整理をしようとするとき、クレジットカードを持っているなら注意が必要です。 クレジットカードを対象にして任意整理をすると、クレジットカードを止められてしまうからです。クレジットカードによって光熱費や電話代、インターネット回線などの引き落としをしている場合には、カードを止められることにより、「料金不払い:の状態になってしまいます。 いきなり電気や電話を止められると困るので、任意整理をする前には、こうした支払い方法の切り替えをしておくことをお勧めします。
7-3.新規のクレジットカードの作成はできるか
任意整理をすると、ブラックリスト状態になってしまうので、その後新たにクレジットカードを作ることができなくなります。 審査が甘いと有名なクレジットカード会社でも、任意整理後のブラックリスト状態では発行を認めてもらえません。 ただし、家族名義でクレジットカードを発行することは以前と変わらず可能ですし、家族カードを発行してもらうこともできます。 たとえば、夫が任意整理をしてブラックリスト状態になった場合、妻名義でクレジットカードを発行して、妻のクレジットカードの家族カード(夫用のもの)を発行し、夫がそれを使うことができるということです。 このようなことがあるので、信用のある家族がいる方の場合には、ブラックリスト状態による影響は限定的と言えます。
7-4.任意整理しないクレジットカードに影響がでるか
一方、クレジットカードを任意整理の対象にしなかった場合には、しばらくの間は今まで通り使い続けることができます。しかし、任意整理をすると、個人信用情報に事故情報が登録されるので、いずれカード更新の際などにカード会社が個人信用情報を参照して、債務整理の事実を知ってしまいます。そこで、将来的にはクレジットカードを止められることになります。 任意整理後、クレジットカードを使っていると、ある日突然使えなくなってしまうこともあるので注意が必要です。引き落としなどに使っているならば、早めに銀行口座引き落としなどに切り替えておくことをお勧めします。
7-5.カードローンと自動車ローンの両方を利用している場合
任意整理をするとき「カードローンと自動車ローン」をセットで利用していることがあります。 車のローンを組んだときに、同時にカードを作ってカードローンを利用しているケースです。債権者は同じ会社で、ローンの契約が2種類ある状態となっています。 このような場合、車のローンはそのまま支払いを続け、カードローンのみを整理したい、という方がおられますが、そのようなことは可能なのでしょうか? まず、同じクレジット会社でカードローンと車のローンの両方を利用している場合、カードローンを整理すると、基本的に車のローンも同時に整理されてしまいます。 すると、所有権留保がついているケースでは、クレジット会社が車を回収してしまうので、車が失われてしまいます。 このような結果を防止するためには、当初から「車のローンは対象にしない」ことを債権者に通知しておくことが必要です。 弁護士にご依頼いただく場合には、当初のご依頼の際に「車のローンとカードローンがあるので、カードローンだけを整理したい」とおっしゃっていただいていれば、そのように取りはからいますので、車の引き上げを避けることができます。 ご依頼いただく場合の参考にしてみて下さい。
7-6.任意整理と住宅ローン
任意整理をするとき「家や住宅ローンはどうなりますか?」というご質問を受けることもあります。 基本的に、任意整理をしても、自宅や住宅ローンに対する影響はありません。 家にもそのまま住み続けることができますし、権利が変更されることもありません。 住宅ローンについても、任意整理の対象にすることは通常ありませんので、従来通りに支払いを続けていただくことになります。 ただし、住宅ローンの金額が多額で支払いが苦しい場合、任意整理をしても、借金を整理しきれないことがあるので、注意が必要です。 そのような場合、住宅資金特別条項付きの個人再生を検討した方が良いこともあるので、判断がつかない場合、弁護士までご相談ください。
7-7.任意整理は家族に秘密でできるか
借金をしている方は「家族に秘密にしている」ことが多いものです。 「任意整理をすると、家族に知られてしまうのではないか?」と不安を感じる方もおられるでしょう。 先にも説明しましたが、任意整理を家族に秘密で進めることは、十分に可能です。 ただし、そのためには弁護士に手続を依頼する必要があります。 自分で任意整理をすると、債権者から大量に取引履歴やその他の連絡書が自宅宛に届くので、同居の家族に知られずに手続を進めることは困難です。
8.任意整理と自己破産、個人再生との違い
任意整理は、他の債務整理手続きとどのような違いがあるのか、見てみましょう。
8-1.自己破産との違い
まずは代表的な債務整理の方法である「自己破産」との違いを確認しましょう。
借金がなくなるか
自己破産と任意整理の一番大きな違いは「借金がなくなるかどうか」ということでしょう。 自己破産の場合には、借金が完全に0になります。残るのは、税金や健康保険料、養育費支払い義務などの一部の債務のみです。 これに対し、任意整理をしても、基本的に借金はなくなりません。 カットできるのは将来利息くらいなので、元本はそのまま残ります。 多額の借金がある人や収入がない人の場合には、自己破産の方が向いていると言えます。
財産がなくなるか
自己破産をすると、債務者の財産は基本的に失われてしまいます。これに対し、任意整理であれば財産がなくなることはありません。 そこで、自宅などの財産がある人や守りたい資産がある人の場合には、任意整理の方が向いています。
すべての債権者を対象にすることが必要か
自己破産の場合、すべての債権者を対象にしなければなりません。債権者隠しをすると、免責不許可事由に該当して、借金を免除してもらえなくなる可能性があります。 任意整理ならそのような制限がないので、自由に対象とする債権者を選べます。 先にも説明した通り、個人から借入をしているケースや車のローンがあるケース、保証人がついている借金があうケースでは任意整理の方が向いています。
借金の理由が問題になるか
自己破産には「免責不許可事由」があるため、たとえばギャンブルや浪費などが原因で借金したケースなどでは、免責(借金を0にする決定)を受けられない可能性があります。 これに対し、任意整理にはこのような規定はないので、どのような原因の借金でも問題なく減額してもらうことができます。 ただし、自己破産でも「裁量免責」という制度があるので、ギャンブルや浪費が原因でも、最終的には免責を受けられるケースがほとんどです。
裁判所が関与するか
自己破産には裁判所が関与するので、手続き進行や要件などいろいろと厳格な規制がありますが、任意整理にはそのような規制がないので、柔軟な解決が可能です。
強制執行を止められるか
たとえば、給料差押えを受けているときに自己破産をすると強制執行を止めることができますが、任意整理にはそのような効果はありません。
8-2.個人再生との違い
次に、個人再生と任意整理の違いを確認していきましょう。
借金の減額率
個人再生と任意整理は、どちらも借金を減額する手続きですが、減額率が全く異なります。 個人再生の場合には、5分の1~10分の1など大幅な減額が可能です。利息のみではなく、元本も含めて減額対象となるので、大きな借金があっても解決しやすいです。 しかし、任意整理の場合、将来利息をカットできる程度です。そこで、多額の借金があるなら個人再生の方が向いています。
財産評価の問題
個人再生をしても財産がなくなることはありませんが、個人再生をするときに財産があると、その財産の分は、最低限支払いをしなければならないという原則があります。このことを、「精算価値保障原則」と言います。そこで、財産がある人が個人再生をすると、支払い総額が大きくなってしまいます。 これに対し、任意整理の場合、財産評価はまったく関係しないので、いくら多額の財産を持っていても同じように借金を減額することができます。そこで、財産をたくさん持っている人の場合、任意整理の方が有効なケースがあります。
すべての債権者を対象にする必要があるか
個人再生の場合には、債権者平等の原則が働くので、すべての債権者を対象にしなければなりません。債権者隠しをすると、借金の返済総額が上がってしまったり再生計画が認可されなかったりなど、各種のペナルティがあります。 これに対し、任意整理では、自由に債権者を選ぶことができます。
収入要件の厳しさ
任意整理も個人再生も、手続き後に債権者への返済が残る手続きです。そこで、返済をしていけるだけの収入を要求されます。 ただ、どの程度の収入が必要かについては、両者に大きな違いがあります。 個人再生の場合、裁判所が関与することもあって、収入要件をかなり厳しく算定されます。 債務者本人に、安定した充分な収入があることが必要となるので、主婦や失業中の人が個人再生することは、困難です。アルバイトの人でも、雇用状況が安定していない場合、個人再生できない可能性があります。 これに対し、任意整理の場合には、どのような手段でも何とかして返済ができれば許されます。失業中でも就職して返済ができる見込みがあれば任意整理できますし、主婦でも夫の給料から返済できるなら任意整理することが可能です。
9.任意整理の手続き・方法と流れ
次に、任意整理のスケジュール(手続きの流れ)、必要書類を確認していきましょう。
9-1.任意整理のスケジュール
まずは、任意整理のスケジュールとかかる期間をご説明します。 任意整理をするときには、債権者に対し、「取引履歴」の開示を請求する必要があります。取引履歴とは、借入を始めた当初から現在に至るまでの入出金の記録です。 そして、開示された取引履歴を「利息制限法」に引き直して計算します。過去に利息制限法を超過して取引していた方の場合、この時点で借金が大きく減額されたり、過払い金が発生していることが判明したりすることがあります。 このようにして借金の返済額を確定させたら、債務者の方で、残った借金の返済計画を立てます。そして、その案を債権者に送り、交渉を行います。 債権者としても、債務者の作成した計画案通りで良いということであれば、そのまま和解が成立します。和解ができたら「合意書」を作成して、合意月の翌月頃から支払いを開始することが多いです。その後、支払いを続けて定められた支払いを完了したら、借金がなくなります。
9-2.任意整理にかかる期間
任意整理にかかる期間は、早くて3ヶ月、長くて8ヶ月程度であることが多いです。
9-3.必要書類
任意整理には、特に必要書類はありません。契約書やカードがなくても、過去にどこから借入をしていたのか記憶があれば、弁護士の方で必要な情報を調べることができます。 ただし「債権者一覧表」だけは作成していただいた方が良いです。 債権者一覧表とは、債権者名と住所、連絡先、当初借入額、現在の残高、現在の毎月の返済額などを記載した書類です。 これがないと、どこからどれだけ借入をしているのか、どれくらいの負担になっているのか、過払い金発生の有無などを判断しにくいので、債務整理の方針を立てられないのです。 そこで、弁護士に相談に来られる際も、最低限、債権者一覧表だけは作成して持参していただければと思います。 また、必要書類はないとは言っても、「あった方が望ましい書類」があります。 以下のようなものです。
- ● 契約書
- ● カード(クレジットカード、カードローン用のカード)
- ● 振込証
- ● 銀行預金通帳
- ● 債権者からの督促書
- ● 内容証明郵便
- ● 裁判関係書類
- ● 差押え関係書類
このようなもので、手元にあるものがあれば、是非ともご相談の際にお持ちください。 また、法律相談をお受けいただく際には本人確認が必要ですので、免許証等の本人確認書類もお持ちいただけますと幸いです。
10.任意整理の費用
任意整理をするとき、どのくらいの費用がかかるのか心配だという方も多いでしょう。以下で、任意整理の費用を確認します。
10-1.任意整理の費用の相場
任意整理の費用には「実費」と「弁護士費用」があります。 実費とは、郵便の費用など、実際に任意整理をするときに発生する費用です。実費は、弁護士に依頼せずにご自身で手続を進める際にも必要です。 これに対し、弁護士費用は弁護士に依頼したときに、弁護士に支払うべきお金です。 以下で、それぞれの相場をご紹介します。
実費について
任意整理の場合、実費はほとんどかかりません。 かかるのは、郵便の費用や通信代、合意書に貼り付ける印紙代くらいです。 数千円もあれば十分でしょう。
弁護士費用について
任意整理を弁護士に依頼すると、弁護士費用がかかります。 任意整理の弁護士費用には、いくつかの費目があります。
着手金
着手金とは、弁護士に任意整理を依頼したときに発生する費用です。 多くの法律事務所や司法書士事務所では、債権者1社について2万円~4万円程度となっています。
減額報酬金
減額報酬金は、交渉によって借金を減額できたときに発生する費用です。減額できた程度に応じて発生します。 減額報酬金の相場は、減額できた金額の5~10%程度です。
基本報酬金
基本報酬金とは、債権者と合意ができたことに対する報酬金です。 基本報酬金の相場は、債権者1社について2万円となっています。
過払い報酬金
過払い報酬金は、過払い金を回収できたときに発生する報酬金です。 回収できた過払い金に対して割合的に計算されます。 相場として、交渉によって回収できた場合には過払い金の20%程度、訴訟によって回収できた場合には過払い金の20~25%程度となることが多いです。
10-2.任意整理を弁護士に依頼するメリット
任意整理を弁護士に依頼すると、費用がかかりますが、それでもメリットがあると言えるのでしょうか? 任意整理の弁護士費用は10万円~20万円程度になることが多く、自分で手続きをしたらその分を節約できるので、メリットがあるように思えます。 しかし、自分で手続きをすると、債権者と交渉をしなければなりません。すると、債権者主導で話が進み、不利な条件で和解することになってしまう可能性が高くなります。 無理な条件を設定されてしまったら、あまり支払いが楽になりませんし、途中で返済できなくなってしまうかも知れません。そうなったら、今度は個人再生などの手続きをしなければならないので、よけいに費用がかかってしまいます。 また、自分で手続きをすると、労力がかかるので、貴重な時間が無駄になります。そのようなことをしているなら、その分仕事をしていた方がお金になるかもしれません。 このようなことを考えると、経済的な意味でも、結局は弁護士に依頼した方が得になります。 任意整理をするときには、まずは弁護士に相談されることをお勧めします。
11.任意整理をする場合の注意点
任意整理をするときには、いくつか押さえておきたい注意点があるので、以下でご説明します。
11-1.自己破産や個人再生を選択しないだけの理由があるか
まずは、債務整理方法の選択についてです。 債務整理をするときには、主に「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3種類の方法から適切なものを選択することになりますが、どの手続きが向いているかについては、ケースによって個別に検討する必要があります。 たとえば、借金が大きすぎる場合には任意整理では解決できないので個人再生や自己破産を検討する必要がありますし、財産を失いたくないケースでは、自己破産を選択できないので、任意整理や個人再生を選択する必要があります。 手続選択を誤ると、思ったような結果が得られず、借金問題が解決されない可能性があるので、注意が必要です。 もし、自分では適切な手続選択ができない場合、弁護士に相談されるのが良いでしょう。
11-2.新たな借入れの制限(ブラックリスト問題)
次に注意しなければならないのが、「新たな借入の制限」です。 これは、何度かご説明してきた、いわゆる「ブラックリスト問題」です。 任意整理をすると、個人信用情報に事故情報が登録されるので、その後一定期間、ローンやクレジットカードなどを利用できなくなってしまいます。 たとえば、将来住宅ローンを組む予定がある方などの場合、任意整理後5年程度は不可能になることを覚悟すべきです。 家族に十分な信用がある場合にはあまり問題にならないかもしれませんが、一家の大黒柱や独身の単身者がブラックリスト状態になると、影響が大きくなります。
11-3.携帯電話への影響
端末代の分割払いができなくなる
任意整理をすると、携帯電話やスマホへの影響も無視できません。 今は、ほとんどの方が携帯電話やスマホを利用している時代です。 これらの端末を購入されるとき、一般的には、2年程度の「分割払い」にすることが多いです。一括払いにすると、4万円~10万円以上の費用がかかるので、負担が重くなってしまうからです。 しかし、任意整理をしてブラックリスト状態になったら、物品購入の分割払いを利用できなくなってしまいますので、携帯電話端末の分割払いも選択できません。 そこで、任意整理後5年間程度の間は、携帯電話の新規契約や機種変更をするときに、一括払いで購入するしかなくなります。 ただし、家族がいる場合には、家族名義で携帯電話の契約をすれば、分割払いを選択することができます(家族がブラックリスト状態ではない場合)。
携帯電話の契約自体は可能
ときどき誤解される方が折られますが、ブラックリスト状態になって不可能になるのは「機種端末の分割払い」のみであり、携帯電話やスマホの利用自体は可能です。ブラックリスト状態になったからといって、いきなり携帯電話を強制解約されることもありません。 ただし、借金に追われている方は、携帯電話料金そのものを滞納してしまうことがあります。携帯電話会社は、料金滞納に対しては大変厳しい措置をとっており、滞納すると、比較的早期に利用を止められてしまいます。そして、滞納分をきちんと支払わない限り、利用を再開してもらうことができません。 滞納情報は携帯会社の間で共有されているので、他の携帯会社でも契約することができません。 そこで、任意整理前に携帯電話の料金を滞納してしまったら、早めに支払いをしてしまうことが大切です。 もし、滞納状態が続いている場合でも、携帯電話料金の滞納分については、任意整理の対象から外して、早期にまとめ払いしてしまうべきです。任意整理なら、債権者平等の原則が働かないので、携帯電話の料金だけまとめ払いをしても、手続き上問題になることはありません。